◆2009年の「野の扉」の畑◆

無農薬有機野菜と平飼い有精卵の菜園「野の扉」
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朝日新聞出版の朝日ビジュアルシリーズ「週刊・野菜づくり花づくり」という雑誌で、「野の扉」のカボチャ作りのことが取り上げられました。12号の2010年5月23日号です。「最新」(2009年7月取材)の「野の扉」紹介です。「菜園たより」の5月4週号で予告しましたが、やっと、サイトにアップできました。ライターの八田尚子さん、カメラマンの落合由利子さん、転載を快くご承諾いただき、ありがとうございました。なお、写真は、雑誌掲載のものとは、異なっています。 (2010/7/1up)




[達人にきく]畑編

重いカボチャはリレー方式で収穫
   ◎埼玉県寄居町・菜園〈野の扉〉


 無農薬・無化学肥料の野菜づくりと、採卵鶏の平飼い養鶏を営んで一七年。丹精込めて土作りを続けてきた<菜園・野の扉>の畑では、カボチャがずしりと重い実をつけていた。収穫したら風通しのよい日陰で、半年先の出荷まで見越して貯蔵する。

(プロフィール) 
伊藤晃さん・泰子さん 
 ともに東京で働いていたが、農業を志して埼玉県寄居町の農業塾で農業を学び、1993年に独立した。農園名は、農業にかける思いを託して、農民詩人・田中国男の詩集『野の扉』から菜園「野の扉」と名付けた。現在では年間約80品目の野菜づくりと、また採卵鶏150羽の養鶏を営む。





 埼玉県寄居町の<菜園・野の扉〉では、出荷時期を算段しながら、四品種のカボチャの種をまいた。その名も楽しい「ほっとけ栗たん」、定番の「メルヘン」、長く貯蔵できる「ユキノ」、 そしてミニカボチャの「栗坊」である。
 カボチャは腐葉土、燻炭などの自家製培土を使ってポットで育苗し、四月初めから順次定植した。
6月、カボチャがつるを伸ばし始める頃、畑で育てた小麦の麦ワラと、近くの農家から分けてもらった麦ワラを畑に敷きつめる。雑草や泥はね防止のため、他の野菜にも麦ワラはなくてはならない資材である。カボチャの実が生育したら、重みで土の中に沈んでしまわないよう、発泡スチロール製の「枕」を敷いて収穫を待つ。

■肥料の基本は発酵鶏フン

 年間を通して約80品種の野菜や豆類、小麦を作っている〈菜園・野の扉〉では、苗はすべて自家製培土で育てる。肥料の基本は、自家配合のエサで飼育している採卵鶏のフンと、鶏小屋に敷いているモミ殻などが自然に発酵した「発酵鶏糞」である。農業をなりわいとして17年、農薬や化学肥料は一度も使ったことがない。にもかかわらず、出荷する野菜に「有機栽培」の表示はない。
 2001年、「有機農作物の日本農林規格(通称・有機JAS法)」による表示規格がスタートした。栽培方法などについて、第三者機関による厳密な検査を受けて認定された農作物のみ「有機JASマーク」をつけて販売できるという制度である。
 伊藤さん夫妻は、制度スタート当初に認定を受けた。しかし、書類づくりの労力、認定に要する費用などの負担は予想以上に大きかった。このまま継続するかどうかどうか悩み、結局、2年間でやめたという経緯がある。収穫した野菜は市場に出荷するのではなく、すべて、個人のお客さんと小規模な小売業者との直接取引をしているので、マークを受ける必要はないと考えたのだ。

「有機農作物の認証制度は、いくつかの種類に絞って栽培し、大量に出荷している大規模農家なら対応できるかもしれません。でも、うちのように年中途切れることなく、多くの種類の野菜をつくっている多品種少量栽培の農家には向かないと思う。畑の野菜を丸ごと評価してもらう。これがうちのやり方です」と、泰子さんは語る。


■半年かけて順次出荷

 関東に梅雨明けが宣言された7月中旬、2回目のカボチャの収穫作業が行われた。
 泰子さんと研修生の杉村翼さんは、畑一面につるを伸ばし、葉が生い茂ったカボチャ畑に入る。腰をかがめ、ずしりと重量感のあるカボチャのヘタをハサミで切りとり、ほーいと投げると、晃さんが受け止めていく。炎天下、汗だくになりながらの作業だ。
 「収穫したカボチャは、毎年、出荷できる野菜が少なくなる春先まで保存しています」と晃さん。カボチャは貯蔵性があることから、一回目に収穫した「ほっとけ栗たん」をまず出荷し、次に「栗坊」と、半年先の出荷まで見越して収穫していく。なぜかというと〈菜園・野の扉〉では野菜のセット販売を基本としているからである。  12種類前後の野菜が入った「フルセット」と七7〜8種類が入った「ハーフセット」を組み、近隣には晃さんが週三回直接配達し、遠方へは宅配便で発送する。
 無農薬・無化学肥料栽培の野菜は、天候や病害虫の影響を受けやすい。もし、いくつかの野菜が不作となっても、他の野菜をピンチヒッターとして出荷すれば不作分をカバーできる。季節の野菜を組み合せるセット販売は栽培や出荷作業に手間はかかるが、生産者にとってはリスク回避の方法であり、お客さんにとってはいつも何種類かの野菜が届くというメリットがある。

 「受け取ったお客さんが料理したくなるような、そんな野菜セットを組みたいと思います」四季折々の葉物、根菜、果菜、そしてときには手づくりの漬物や味噌が入る野菜セット。「受け取るお客さんの顔を思い浮かべながら、出荷作業をやっています」と泰子さん。

 カボチャは大きいものは半分、あるいは4分の1に切って、7月から翌年2月頃までセットに組む。輸入品や冷凍品のカボチャが主流となる冬場。昔からカボチャを食べる慣わしのある冬至にも、セット野菜のお客さんのもとには生鮮カボチャが届けられている。


【菜園〈野の扉〉流の栽培ポイント】
☆元肥として平飼い鶏糞をウネにまいて耕運し、1〜2週間後に定植する。
☆株間は約1メートルとり、ツルが伸びてきたら整えて、のびのび育つ空間を用意。
☆収穫の目安は、ヘタがコルク質になり、実に爪をたてても傷つかなくなったとき。
(ヘタの切り口はできるだけ早く乾燥させる)



【料理】
●夏野菜の揚げ浸し
 夏野菜をたっぷり食べたいとき、伊藤泰子さんはこの料理を作る。カボチャは火が通るまで弱火でゆっくり揚げることがコツ。野菜はころもをつけずに素揚げするので、天ぷらよりさっぱりした味わい。冷蔵庫で冷やしてもおいしく、夏向きの一品だ。

(材料)
カボチャ、ナス、インゲン、シシトウ、揚げ油、市販のめんつゆ、うどん(または蕎麦)

(作り方)
@ カボチャは1cm弱厚さのくし型に切る。ナスは縦半分に切り、皮目に格子の切り込みを入れる。シシトウは油ではねないよう縦に筋目を入れる。インゲンは7〜8cm長さに切る。
A 鍋に油を熱し、カボチャは弱火でじっくり揚げた後、中火でからりと揚げる。他の野菜も素揚げする。
B めんつゆは、つけそばの濃度に薄めておき、野菜が熱いうちに浸していく。
C うどんはゆでて冷ましておき、素揚げ野菜とともに揚げ浸しのつゆで食べる。



【写真キャプション】
◎ヘタをハサミで切るときは実のキワで切り、切り口はできるだけ早く乾燥させる。

◎<野の扉>では、野菜のセット販売を基本としているが、現在の労働力で手いっぱいなので、新規の注文を受け付けていない。


◎杉村翼さんは農業を学びたくて「野の扉」の研修生となった。

◎<野の扉>では、鶏を鶏舎内で放し飼いにする「平飼い」方式で飼育しており、鶏舎の床で半発酵した鶏糞を元肥として用いる。



■著者略歴のかわり(伊藤記)
(→セルフ記念撮影の写真、右から、八田さん、翼君、落合さん、晃、泰子)

八田尚子さんの著書については、紀伊国屋書店BOOKWEBのページをご覧ください。そこにも登場する自然食通信社という出版社で泰子が働いていた頃からの知人です。
落合由利子さんの著書、講談社発行の「絹ばあちゃんと90年の旅〜幻の旧満州に生きて」については、アマゾンのページがあります。
お二人で、雑誌「母の友」や「うたかま」に、農家を訪ねる記事を掲載されています。この、朝日ビジュアルシリーズ「週刊・野菜づくり花づくり」では、それらの経験を生かして、日本全国の「達人」農家の記事を掲載しています。
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